ライフデザインと支援シート

2015年8月2日
シンポジウム「発達障害支援におけるタテの連携を考える」を開催

発達障害支援におけるタテの連携を考える

8月2日(日)本学教育未来館において、平成27年度文部科学省委託事業「発達障害に関する教職員育成プログラム開発事業」の一環でシンポジウム「発達障害支援におけるタテの連携を考える」が開催されました。後藤ひとみ学長からの挨拶、司会の三谷聖也准教授(教育臨床学講座)からの趣旨説明が行われたのち、第一部で「タテの連携」の課題と取組みについて各界で活躍中のシンポジストより話題提供がなされ、第二部で吉岡恒生教授(障害児教育講座)をコメンテーターにシンポジストと参加者を交えディスカッションが行われました。参加者は、教育委員会・学校教職員、大学院生など92名。アンケートでは「タテの連携」の必要性の理解を得ることができたとの多くのお声を頂くことができました。各シンポジストによる話題の概要は以下のとおりです。

 


【第1部】

「小1プロブレムと中1ギャップへの予防的アプローチ」:岐阜大学教育学部 助教

板倉憲政先生幼稚園教諭へのアンケートや小1プロブレム・中1ギャップに関する研究・支援経験を通したタテの連携上の課題が話されました。各校での発達障害支援や連携への懸命な努力の反面、伝達される情報の乏しさ(うまくいった対応、連携者や保護者の情報の少なさ等)、情報の一方向性等による不信感、伴う「悪循環」の存在が指摘されました。幼・小の子ども同士の交流による予防的効果や可能性についてもお話いただきました。

 

「小学校からのキャリア教育」:愛知教育大学学校教育講座 講師 高綱睦美先生

「キャリア教育」導入の背景、タテの連携が目指されてきた経緯、複数市における先駆的な取り組みの紹介がなされました。特定の職業上必要な技能に限らず、子どもたちが将来、社会とかかわる中で求められる汎用的な力や資質に着目した長期的な視点での小学校段階からの「キャリア教育」の意義が指摘されました。これは学校段階を越えた一続きの発達支援を想定し、各段階での教育目標設定に重要であることから、発達障害支援のタテの連携を考える上でとてもヒントになるものでした。

 

「中高大連携の課題と取り組み」:愛知県立瑞陵高等学校 教諭 立松容子先生

高等学校における特別支援教育推進上の課題についてお話しいただきました。通学・履修・人間関係・教員との距離などの変化に伴う「高1クライシス」現象の生じやすさ、発達障害のある生徒のこの体験の大きさなどが指摘され、ガイダンスの充実・合格発表日からの連携・中高の連絡会や研修会の設立などが提案されました。大学との連携に関しては、大学窓口や受け得る支援内容を予め高校と本人が知っておくなど、円滑なタテの連携への可能性をご提案いただきました。

 

「ライフデザイン支援シートの開発と今後の展望」:愛知県総合教育センター相談部 教育相談研究室長 松原正明先生

不登校と発達障害の関連に関する研究の副産物として開発された「ライフデザイン支援シート」の意図や意義についてお話いただきました。これは「一人では書けないシート」のため、教員同士の連携必然性の自覚や参加意識の喚起、会議の過程・見立てや方針・役割分担といった支援の設計図の可視化のメリットなどが考慮され、デザインに工夫が凝らされたもので、タテの連携への活用可能性も提案いただきました。なお、このシートは本事業で作成されたテキスト『発達障害のライフデザイン支援〔連携支援篇〕』に収録され愛知県内外の管理職・研修担当教職員等の教育関係者に成果普及されており、一連の研究成果は次の URL にも掲載されております。

http://www.rinsho-center.aichi-edu.ac.jp/project/project3/index.html

 

【第2部】

学校間の文化差、保護者の障害受容の過程などを見据えながらのタテの連携、本人の自己決定の支援、これらを通した二次障害予防の重大性、そして教員のかかわりを通した振り返りの必然性などを考えさせられるディスカッションが展開されました。

 


(報告:愛知教育大学教育臨床学講座 准教授 三谷聖也)